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「うん。眠り姫みたいだなぁ、って」
黒澤が自分の馬鹿な答えに怒りも呆れもしなかったことが意外で、赤羽は黒澤のセリフに照れることもなく、やや薄いその唇をじっと見つめてしまった。
そのまま目線を落としていき、自身の膝を抱きかかえた黒澤の腕を見る。
手の先は、某ブランドのオリジナルスニーカーをなぜか片方だけぶら下げていて、もっと下降させていくと、足は透明なナイロンに包まれていた。
「それ、どうしたの?」
「あぁ、これ? フットカバーだよ。携帯スリッパでもいいんだけど、それだとかさばるでしょう? これだとポケットに入れておけるし」
黒澤の答えは赤羽が知りたいことから微妙にずれていて、場合によってはイライラしたかもしれないけど、今はさほど気にならなかった。
それよりも、黒澤の言った「でしょう?」の響きが優しくて、高揚した。
「そうじゃなくてさ」
「あぁ、そうか。靴が片方ないんだ。捜してる途中。校内になかったから、外かなと思って。でも、上履きを汚すとあとが困るしね」
笑いながら話す黒澤に、どうしてないのか、とは赤羽は訊けなかった。
その理由は赤羽にはすぐに気づけたし、赤羽だから気づけたとも言えた。
「そんな顔しなくてもいいよ。慣れてるんだ。宝探しをしていると思えば、さして辛くもないよ。それよりさ、こんなところで寝ている君のほうがまずい。いたずらするやつはいないかもだけど、心配されちゃうよ」
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