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昨日、思いのほか靴が早く見つかったことに、黒澤は安堵していた。
外にあったのなら、暗くなってしまえば当然捜し出すのは難しくなる。
まさか校庭の桜の木の枝につるしてあるとは考えつかなくて、偶然とはいえ、見つけてくれた赤羽には本当に感謝していた。
だけど、お礼の言葉もそこそこにして黒澤が木によじ登っている間に、赤羽はどうやら帰ってしまったようだった。
降りてきた時にはもうどこにも姿がなくて、夢でも見た気分に包まれた。
今日はなんとかしてきちんとお礼を言いたいな、と考えながら、ホームルームが終わったあとに机の中を探ると、今度は現国の教科書がなかった。
先程トイレに行ったので、その隙に取り出されたのだろう。
慣れているつもりだが、こう続くとさすがにため息が出る。
間もなく授業だというのに教室は騒がしく、誰も黒澤の静かな落胆には気づかない。
気づいていたとしても、わざと知らないふりをしている可能性のほうが高かった。
集団が手っ取り早く団結するには、共通の敵を作るとスムーズだと言う。
男のわりには華奢な体格で、どちらかと言うと女性的な容姿をした黒澤は、昔から格好のターゲットにされやすかった。
教科書を隠されても、これで赤羽に会いに行く口実ができたなと受け流してしまう黒澤のひょうひょうとしたところも、いじめる側の人間の鼻についてしまう要因なのかもしれない。
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