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昼休みになると、さっさと腹ごしらえを済ませて、黒澤は教室を出た。
いても居心地がよくなるわけではないし、放課後まで楽しみを我慢して取っておけるタイプではなかったから、さっそく隣のクラスへと出向いた。
「赤羽さん、呼んでもらえる?」
教室の前方の引き戸、それを開けてそこに背もたれて話し込んでいた二人組の女子にそう声をかけると、彼女たちは露骨に嫌な顔をした。
でも、そんなことはいつものことだったので、黒澤は気にしなかった。
黒澤がクラスで鼻つまみ者にされていることは、他のクラスでも知っている生徒は知っている。
赤羽が普通にしゃべってくれたことのほうが、黒澤には逆に意外だった。
「別に君たちに何も迷惑はかけないし、赤羽さんに頼みがあるだけなんだ」
そう言うと、彼女たちはただ黙って窓側の席のほうへ視線を投げた。
窓際のいちばん後ろからひとつ前の席、そこで赤羽が、窓からのキラキラした太陽光をつむじから浴びながら、机に突っ伏しているのがわかった。
眠り姫は今日も眠っている。
黒澤は笑いをこらえるのが大変だった。
「赤羽」
女子がそう呼ぶと、赤羽はのっそりと顔を上げた。
どんぐりみたいな大きめな目が黒澤の姿をとらえると、たちまち沈んだ。
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