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赤羽は立ち上がったものの、黒澤のもとへはこないで、そのまま避けるように後ろの扉から出て行ってしまった。
その背中を黒澤は追い、階段の手前で、会話をしていても不自然じゃない距離にまで詰めることができると、一息に言った。
「赤羽さん、昨日はありがとう。すごく助かった。お礼をちゃんと言ってなかったから、どうしても伝えたかったんだ。それで、ついでなんだけど、君のそのラッキーパワーで僕の現国の教科書も見つけてくれないかな」
一秒でも隙を与えたら、赤羽はパッと逃げてしまう気がした。
赤羽は立ち止まり、どこか怯えた目でゆっくりと黒澤を振り返った。
黒澤は笑ってみせた。
赤羽の顔は一瞬笑おうとゆがんで、だけど、すぐに苦しそうに変わった。
それを見た黒澤は、その表情にふと違和感を覚えながらも、黒澤のクラスの中での立ち位置がわりと深刻だということを赤羽は知ったに違いない、と悟った。
「迷惑だったら、もう話しかけないよ」
黒澤が穏やかにそう言うと、赤羽はますます息が詰まったような表情をして、顔を赤らめた。
その時、どこからか、「赤羽虫」と突き刺してくるような声がした。
廊下には人が多く、見回しても、誰が発したものなのかはわからなかったけど、赤羽はサッと顔色を青くして、階段を駆け下りて行ってしまった。
黒澤は、今度は赤羽を追うことはせず、代わりに職員室へ向かった。
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