sLee…p

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少しベタつく潮風が頬を撫でる。 白く冷たい足場は見る限り終わりがないように思えた。 薄明るい地平線へと続くこの路は、何処へ私を導いているのだろう。 雨の日も風の日も、雷の日も、いつだって私は歩き続けた。 徐々に義肌が潮風によって傷付き、傷から砂埃が体内細部を穢す。躰がギシギシと音を立てるのはきっとそのせいなのだろう。 それでも私は歩き続けた。 音の鳴る躰を引きずりながら、 義肌が剥がれ落ち、錆びつき、動かなくなる恐怖を胸に仕舞い込みながら、 私はヒトリ、歩き続ケタ… 其れがワタシに課せられた、ワタシの、存在意義なノだかラ。 …ギギ… 思考回路にノイズが混じる。 脚が前に進まなくなる。 引き摺り続けた脚は錆と摩擦でボロボロだ。 白く冷たかった路はもう感覚器官が麻痺して何の温度も感じず、私の背後の路は錆がこべりついて茶褐色に染まっている。 そして遂に視覚回路にも異常が発生し、視界にモノクロの波が現れた。 もう進めない、全ての機能がノイズの奥でゆっくりと停止していく。 蓄積していたデータに穴が開き、そのうち風化してしまうのだろう。 運動機能の停止とともに私の躰はゆっくりと路に崩れ落ちた。 もう二度と開くことのない瞼の向こうに何かが動いたような気がした。 『…お疲れ様、◯◯。…向こうで……うね、…』 事切れた義体にそっと寄り添いながら彼女の頬を撫でる。その目は慈しみに満ちていた。 気がつくと、真っ白な世界にヒトリ立っていた。 さっきまで誰かと一緒にいた気がする。 そしてとても大事なことを、忘れている気がする。 どうしてそう思うのか、それすら私には理解できなかった。 『…きて、起きて、◯◯。』 何もない空間から声がした。 脳に語りかけてくるような優しい声だ。 それに応えるようにそっと手を伸ばすと 柔らかいものに包まれ、私はまた意識を失ったのだった。
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