たそがれ

2/30
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 なあ、その包帯の下、どうなってんの。  腕に包帯を巻いて、手袋を嵌めているのは肌が弱いからだと言ってあった。  ……見たい?  見たい! 一生のお願い!  友人が笑いながら拝んでくる。それこの前も言ってなかったっけ、調子いいなあ。  少しだけ悩んで、いいよ、と頷いた。ただし、この腕のことは絶対に秘密にすること。  わかった。約束な。  神妙な顔になって、それでも好奇心を隠しきれない目が、腕を見つめてくる。  手袋を外して、包帯の留め具を取って、包帯を解いていく。取ることに集中していたから、その最中に彼がどんな顔をしていたのかは知らない。  腕が現れていく。  白い包帯が解けて解けて、とうとう解け切った時、ようやく顔を上げて友人を見た。  その顔は打って変わって、怯えで強ばっていた。  ばけもの。  スマートフォンが朝を知らせた。意識が一息に浮き上がる。どこか冷たい朝の匂いがした。  時刻は朝の六時半。静かに震え続けるスマートフォンのアラームを切り、戸隠裕斗は体を起こした。一度大きく伸びをする。その拍子に、視界に包帯の巻かれた腕が入り、裕斗はばったりと前に突っ伏した。  出来れば思い出したくなかった。朝イチでこれとか、今日は気を付けた方が良いかも知れない。へこむわー……。  そのまま布団でぐずぐずしていると、軽い足音が部屋の前まで来て、扉を軽くノックした。母だ。  「ヒロー? 裕斗起きてるー? 朝ごはんできてるよー」  「はあーい起きてる! 今いくー」  「おはよ。今日はサンドイッチとコンソメスープだよ。顔洗っといでー」  「おはよ、わかったー」  気配が遠ざかる。いい加減起きなくてはいけない。軽く息をついて、裕斗はベッドから降りた。  今日は金曜、明日は休みだ頑張れ俺。  とりあえず顔を洗うべく、裕斗は洗面台へ向かった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!