時は逝き、君は過ぎる

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時は逝き、君は過ぎる

 君は絵を描いている。  静かな部屋だ。君が画用紙に線を引く音しか聞こえていない。  君の部屋は、いつも暗い。晴れた日も曇りの日も雨の日も、常に部屋のカーテンがしめっきりだからだ。  わずかに灯る小さな卓上ライトに照らされ、君が引く線は輪郭を作り、平面な世界に奥行きができ、その線の連なりが、人物と部屋を描き出していく。  描かれたのは、美しい女性と、広いマンションの一室だ。  君は忘れたかもしれないが、僕はこの女性と部屋のことをしっかりと覚えている。  二人で選んだその部屋は、木漏れ日の差す日当たりのいい部屋だった。  町から少し外れた場所にあり、近くには公園があった。時々、僕と彼女は公園に出かけ、とりとめのない話をした。  君はそんな思い出を絵に見出したりはせず、ひたすらに線を引き続ける。絵を完成させることではなく、君は線を引くことに意味を見出しているように見える。  朝起きて、適当にレトルトで食事をすませると、君は絵を描き始める。その作業は君が眠るまで続く。  そんな生活を続けて、そろそろ三年になるだろうか。     
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