0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
時は逝き、君は過ぎる
君は絵を描いている。
静かな部屋だ。君が画用紙に線を引く音しか聞こえていない。
君の部屋は、いつも暗い。晴れた日も曇りの日も雨の日も、常に部屋のカーテンがしめっきりだからだ。
わずかに灯る小さな卓上ライトに照らされ、君が引く線は輪郭を作り、平面な世界に奥行きができ、その線の連なりが、人物と部屋を描き出していく。
描かれたのは、美しい女性と、広いマンションの一室だ。
君は忘れたかもしれないが、僕はこの女性と部屋のことをしっかりと覚えている。
二人で選んだその部屋は、木漏れ日の差す日当たりのいい部屋だった。
町から少し外れた場所にあり、近くには公園があった。時々、僕と彼女は公園に出かけ、とりとめのない話をした。
君はそんな思い出を絵に見出したりはせず、ひたすらに線を引き続ける。絵を完成させることではなく、君は線を引くことに意味を見出しているように見える。
朝起きて、適当にレトルトで食事をすませると、君は絵を描き始める。その作業は君が眠るまで続く。
そんな生活を続けて、そろそろ三年になるだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!