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いつもの投球練習でのこと。
最近コーチがストレートをもっと磨こうと言って、新しい変化球のことを言われなくなった。
私もストレートには自信があったのでそう言ってもらえて嬉しかった。
ある日、ピッチングの調子もだいぶ良くなってきたので、変化球をまた練習した方がいいかコーチに聞いてみた。
「いずれその変化球は覚えてほしいけど…まだ今のままでもいいかもな。調子もいいし。」
「そうですか、わかりました。」
「それにしても佐倉もお前のことよく見てるよなあ。」
「え?」
「だってあの日佐倉に言われなかったら、私は気付かなかったよ。百田が苦しんでるって。」
「あの日…?なんのことですか?」
「え、聞いてないの?あの土砂降りの日。あいつ、傘も差さずに駆け寄ってきて必死にお願いしてくるからさ。変化球はもう少し待ってあげてくださいって。」
「!!!」
私は驚いて声が出なかった。
あの日。
若葉先輩は土砂降りの中外へ飛び出した。
コーチを追いかけて、私のために頭を下げてお願いしてくれていた。
私は知らない間に、先輩に守られていた。
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