第1章【たとえ何もなしえなかったとしても】

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第1章【たとえ何もなしえなかったとしても】

第1話「これまで、それとこれから」 ※ 長く暗いトンネルが続く。 それはまるで私とあの町とを引き離してくれているかのようで少し気が楽になっているような気がする。 気がするだけだけど。 確かに物理的には離れてはいるのだけど、あの町は私の心の中にしつこく存在し続けている。 目をそらしても、顔をそむけても、逃げ出しても、あの目は、あの顔は、あの声は、瞼を閉じればすぐそこにはっきりと浮かんでくる。 私はそれから逃げられない。 きっと。 ずっと。 いつまでも。 私の足に絡みついて離れることはないだろう。そのことを私も望んでいるのだから尚更… 「眠い?」 隣の運転席から声がかかり目を開けると、まだトンネルは続いている。黒い壁の上を朱色のライトが一定間隔で走り去って行っている。 「無理もないわよ。あなた、あっちにいた時昼夜逆転していたんだし。まだ朝の7時よ」 違うよ真昼おばさん、私はただ、自分の惨めさを再確認していただけ。 反対側を見ればガラスに自分の顔が映る。 前髪は無造作に鼻下まで伸び、目の下には隈が出来、いかにも精力の無いような表情…あきれる。 昔からずっとショートにしていたのに今ではもうこんなに伸びきって… 精神科医曰く私は「混乱」している状態なのだそうだ。私自身には全く実感がなくて・・・。 実際私にとっては本当にどうでもよいのだ。 私を知っている人はこのトンネルを抜けた先にはいないのだし。そもそもそういう場所を求めているからこそ、今こうしている訳であって。 私の事を知っている人などいない場所。その上で私に関わろうとしない人。今まで通りに、引きこもっていればその心配もなくなるだろう。 朱い電灯はトンネルに入った時からずっと同じリズムで現れたり消えたりを繰り返している。 ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ、・・・・・と。一つ過ぎ去るたびにあの町と私の距離がどんどん増えていっている実感がわいてきて心地いい。 ああでも。おばさんの言った通り、確かに少し眠いなぁ… 「見えてきたわ」 そう言われて目を開ける。 暗く長いトンネルを通ってきたせいなのかとてもまぶしく感じる。 その光はまるで、私を消そうとしているかのようで気分が悪くなった。
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