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おぼろ月
ある日、フォロワーさんがリプライしていた画像に、寧音は釘付けになった。
初恋の女子の先輩に、似ていたからだ。
皮膚の下を、泡立つように血が巡るのを感じていた。
よく見ると、顔の作りは全然違う。
だけど、似ていると想ったのは何故だろう・・・
ハンドルネームは、「ノア」。
黒髪と、白い肌のコントラストが優しい顔の輪郭に沿って境界線を描き、赤く染めた薄い唇が、くっきりと際だって見えた。
プロフィールをクリックして、寧音はもっと驚いた。
レズビアン風俗の女性だったのだ。
寧音には、遠い世界の住人としか思えなかったけれど、思わず「フォロー」をクリックしていた。
仕事が忙しいのか、ノアのツイートの更新は、まれだった。
だけど、短い文面の中に、年齢不相応の『闇』を感じた。
時には笑顔の画像もあった。それは年齢相当の、無邪気な笑顔だった。
言うなれば、「天使」と「悪魔」を、その体に住まわせているようなノア。
自分が若かりし頃に、ノアに出会えていれば・・・・そんな妄想が、ふっと、寧音の脳裏をよぎった。
だけど、その当時の寧音ならば、お金を支払って、ベッドを共にする事など考えもしなかっただろう。
深海に身を沈めている今だからこそ、ノアのツイートの中に、小さな光を見いだしたのかもしれない。
寧音の経済状況からしてみれば、東京に行く交通費も、ノアに支払うお金の余裕は全く無かった。
現実的に、ノアに逢うことは、絵空事だと割り切って、ノアのツイートを待ち続けた。
だけど、寧音の中で止まっていた時計は、ゆっくりと、時を刻み始めていたのだ。
彼女がそれと、気づかぬまま・・・・
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