黒猫と鏡

2/8
前へ
/237ページ
次へ
それは、茹だるような暑さの真夏の日であった。 教授が教室の前の大きな黒板にチョークを叩く音が、やけに大きく響いている。 その教室には学生がまばらに座っていて、真面目にノートを取っている者もいたが、大半は携帯をいじったり、ぼーっとしたり、机に突っ伏して授業を放棄していた。 あまねは、教科書とノートを開いて右手にシャーペンを持ったまま窓の外の景色を眺めていた。 この教室の窓からは東京の高層ビル群が一望できて、あまねは授業中にこうしているのが好きだった。 いつもと何ら変わらない光景であった。 「......ん?」 ふとすぐ隣に気配を感じて視線を移す。 誰も座っていなかった隣の席の椅子に、あろうことか真っ黒な猫が丸くなっていた。 あまねは驚いて大きな瞳をぱちぱちとさせてから、周りを見渡す。 誰もこの猫の存在には気付いていないようだ。 「ねえ、君。どうやってここまで来たの?」 あまねは誰にも聞こえないような小さな声で問う。 ここは大学のキャンパス内で、今の時間は授業中とはいえ、猫が一匹でここまでやって来るのは不可能に感じられた。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加