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それは、茹だるような暑さの真夏の日であった。
教授が教室の前の大きな黒板にチョークを叩く音が、やけに大きく響いている。
その教室には学生がまばらに座っていて、真面目にノートを取っている者もいたが、大半は携帯をいじったり、ぼーっとしたり、机に突っ伏して授業を放棄していた。
あまねは、教科書とノートを開いて右手にシャーペンを持ったまま窓の外の景色を眺めていた。
この教室の窓からは東京の高層ビル群が一望できて、あまねは授業中にこうしているのが好きだった。
いつもと何ら変わらない光景であった。
「......ん?」
ふとすぐ隣に気配を感じて視線を移す。
誰も座っていなかった隣の席の椅子に、あろうことか真っ黒な猫が丸くなっていた。
あまねは驚いて大きな瞳をぱちぱちとさせてから、周りを見渡す。
誰もこの猫の存在には気付いていないようだ。
「ねえ、君。どうやってここまで来たの?」
あまねは誰にも聞こえないような小さな声で問う。
ここは大学のキャンパス内で、今の時間は授業中とはいえ、猫が一匹でここまでやって来るのは不可能に感じられた。
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