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その建物は薄暗く、あまねのいる場所からは人の気配は感じられない。
あまねは一度ごくりと唾を飲み込むと、躊躇することなく建物の中へと駆けて行った黒猫の後を追って、意を決して建物の中へと足を踏み入れた。
中に入ってもやはり人の気配はなく、恐る恐る進んでいくと、目の前に大きな扉が現れた。
それは豪華な装飾を施された分厚い扉で、少しの力では動かせそうにない重厚感があるが、それはまるであまねを招き入れるかのようにほんの少しだけ開いていた。
さっきの黒猫はこの中に違いないーー。
そう確信したあまねは、誘われるようにその重い扉を開けた。
「わあ...!」
そこは、アンティーク調の家具や小物などが雑多に置かれた物置のような部屋だった。
普段あまり目にすることのない繊細な作りのそれらを目の前にして、その息を呑むような美しさに目を奪われるあまねだったが、ふとその部屋の一番奥に一際目を惹く大きな鏡を見つけ、あまねはその鏡の前へと立った。
その鏡に映ったのは、どこにでもいるようなごく平凡な女子大生ーー見慣れた自分の姿だ。
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