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なだらかな丘の上で、雲が穏やかに流れていた。
春から夏に移ろうとしているこの時期の風は、爽やかな緑の匂いがする。
ライラは、それを胸いっぱいに吸い込む。彼女は今の季節が一等好きだった。
そして意を決して、目の前のレンゲの花に手を伸ばす。
すぐに破れてしまいそうな花弁を慎重にめくりあげ、房を指で軽くたたき、花粉を瓶に集める。
そして十分に時間をかけながらも、なんとか大方の花粉を集めることが出来た。
ライラは一息つく。
風が、額に滲んだ汗を心地よく冷やしていった。
ライラは、東の森に住む、花守(ピリーウィギン)という妖精だ。
花の蜜や花粉を集めながら暮らす妖精で、小さな王国をつくって仲間と暮らしている。
王国は、女王や次期女王の姫君などの王族、準王族の雄、そして様々な仕事を行う労働階級(ワーカー)で成り立っており、ライラは羽が生えたばかりの若い労働階級だった。
労働階級は、保育係、採集係、貯蔵係などの様々な職種に分かれており、羽が生えると、適正を見定める為に各職種の研修を受けることになる。
ライラは採集係の研修中であり、今日は小瓶いっぱいの花粉と蜜を集めることがノルマに課されているのだった。
今、花粉は瓶の半分ほど集まっている。
問題なのは、蜜の方だった。
ライラはもう一度レンゲに向き合い、花弁の奥に溜まる蜜を吸い上げようと、そうっと管を差し込む。
「あっ」
しかし、手元がぶれて管が花を突き破り、蜜はほとんど零れてしまった。
ライラは本日5度目の失敗に涙目になる。
彼女の蜜の小瓶は、未だほとんど空だ。
採集は基本中の基本のスキルであり、普通の花守ならば息をするくらい簡単な作業のはずなのだが、不器用なライラにはひどく難しい仕事であった。
適正は皆無、いやむしろマイナスだろう。
現に、採集係の研修に入ってから先輩にどやされなかった日は無い。
今日もこってり絞られることだろう……。
そんな萎れるライラの肩を、優しく叩く者がいた。
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