疵と、あなたのこと。

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 あるときから、あなたは周囲に疎まれるようになった。  あなたが素敵なものを全力で探しているのだ、ということを知らない人たちは、あなたのことを色々な言葉で批判した。  けれどあなたは、そんなことはまるで気にならないようだった。  あるときから、あなたの周りで、不可解なことが起き始めた。  それは、例えばあなたの持ち物が、急になくなったり、傷つけられていたりするようなことで。  そしてわたしは、すぐに、何が起きているのかを理解した。  ほんとうは、きっと、色々な人に、あなたが見ているもののことを教えたかった。  わたしには、多分、それができた。だってわたしは、あなたの一番近くで、あなたの話をずっと聞いていたのだから。  けれど、わたしには、それを口にするだけの勇気はなくて。  だから、ついあなたに、こう言ってしまったのだ。 「――もう少しだけ、人のことも、考えてあげたらどうかな」  と。  わたしは、あなたならきっと、これまでと同じように、聞き流してくれると思った。  変わらないままの、あなたでいてくれると思った。  けれど。  わたしがそう告げたときの、あなたの顔を、わたしは今も忘れない。
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