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そうして、大学に入って、何年かが過ぎた。
わたしは、あなたのことを、ほとんど忘れかけていた。それくらいに大学は忙しくて、さらにそれほど裕福な家庭の出でもなかったわたしは、合間に少しでもアルバイトをして、学費を稼がなければならなかった。
私の頭の中には、気づけば単位とお金のことだけしかなくなっていた。
そんなある日、私の携帯に、見知らぬ番号から電話がかかってきた。
不審に思いながらもそれに出たわたしに、あなたはただひとこと、「やぁ」と告げた。
始めわたしは、それが誰の声なのか気付かなくて。
だけど、あなたの声は変わっていなかったから、やがてわたしは、それがあなただと気づいた。
あなたの名前を呟いたわたしに、あなたは笑って、それから「元気?」と聞いた。
わたしは、「うん」と返して、それ以上のことは言えずにいた。
そのまま、沈黙の時間が続いて。やがてあなたは、「じゃぁ、またね」とそう告げて、電話を切った。
それから数日して、あなたの名前が、テレビのニュースに載っているのを、わたしは見つけた。
そのときの女性ニュースキャスターは、無感情な声で、事故があった、と、そう告げた。
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