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ただ指の隙間から、こぼれ落ちていく
泣き疲れて、眠ってしまっていたらしい。
寒さに震えて目が覚めた。
明け方のほの明るい空が、10階の窓の向こうに広がっている。
開け放したままだったから、部屋の空気は清冽に澄んでいた。
ベッドに寄りかかった体勢の体はこわばっている。
怠い体をゆっくり起こして、窓を閉めた。
窓に映る顔はひどい有り様だ。
目は腫れ、むくんでいる。
会社には行けないなと思い、部屋を出た。
しん、としている。
総士はもう自分の部屋で寝ているだろう。
そう思いながらリビングを開けて息を飲んだ。
ソファに座って腕を組んだまま顔を俯けて眠っている総士がいた。
私を待っていたのだと分かる。
確か、ケーキがあると言っていた。
冷蔵庫を開けると、私がお気に入りのタルト専門店の箱。
色とりどりの鮮やかな果物。
そして私が一番好きな季節のフルーツタルト。
それを箱から少し引きずるように出して、イチゴの欠片をフォークでさした。
潰せば口の中にほのかな甘酸っぱさが広がる。
これを選んで買ってきてくれた総士の優しさが、口から体の奥に降りていく。
「おじいちゃんおばあちゃんになっても、手を繋いでいられる夫婦でいような」
そう微笑みあったかつてを思い出す。
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