「おはよ。」

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「助かったのか、俺は」 娘は頷いた。 「ちょうど60年よ」 娘は言う。 「いい知らせと悪い知らせがある」 俺は頷いた。 「まずは悪い方。少し前にお母さんは死んだ。お父さんが眠ってしまってからは、何人も恋人を作ったわ。そこについては文句は言えないと思うけれど」 俺は頷いた。 「お父さんの財産は、もう殆ど残ってない。コールドスリープというのは、とんでもなくお金がかかるものみたいね。これは返しておくわ」 娘は、ひどく古ぼけたいくつかの封筒を俺に手渡した。中身を確認すると、金が入っていた。 「銀行に行けば、両替してくれると思う。もう紙のお金は使われていないけれど......事情を話せば、たぶん大丈夫」 「使わなかったのか」 俺は聞いた。 娘は何も言わなかった。 「次はちょっとだけいい方。去年、ALSの治療法がやっと確立した。その分だと、お父さんの契約したコールドスリープの業者は、割としっかりしてたみたいね。眠ったまま死んでしまう人や、目覚めてもリハビリがすごく大変な人が多くて、問題になってる」
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