もうだめだ

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初めて自分の原稿が雑誌に載ったのは、大学生の頃だったと思う。編集部から電話で連絡を受けたときには本当に驚いた。 俺は雑誌の発売日にコンビニに飛んでいった。自分の描いたものがコンビニの棚に並べられ、売られているというのはものすごく奇妙な感覚で、もちろん嬉しいには嬉しかったが、それ以上に違和感があった。 それから生活の大半をペンを握り、原稿用紙と格闘することに費やすことになったわけなんだが。 「線の重み」 この感覚だけを頼りに、10年以上戦っている。 面白いものが書けているときは、良くも悪くも線が「重い」。そこに意味が乗っているからだ。インクの粒子ひとつひとつが、紙にべたりと貼り付いて、絵を構成する。その状態にまで自分を持っていくことができれば、しめたものだ。あとは線がなんとかしてくれる。キャラクターはひとりでに動き出し、背景は実際にそこにあるかのように存在感を帯びてくる。頭の中のイメージと、原稿用紙に描かれた絵がシンクロし、ひとつに繋がる瞬間が訪れる。 もちろん俺もプロなのだから、ネームは描いている。物語の流れは作画に入る前に予め決められている。それでもこの感覚は原稿の良し悪しを決定的に左右する。線に含まれる微妙なニュアンスこそが、面白さの本質であり、全てなのだ。
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