「大変言いにくいのですが。」

5/6
前へ
/18ページ
次へ
奇妙な訪問者があった。 青いストライプのスーツを着、ブランド物の腕時計をはめている。頭髪にはポマードをべったりと撫で付けている。どこからどう見ても信用のおけない男だ。 「ご提案をお持ちいたしました」 男はベッドの上にパンフレットを広げた。 整髪料と香水が入り混じった妙な匂いが漂ってきた。 「コールドスリープのご相談です」 男は言った。 パンフレットには冷凍冬眠について書かれていた。否、正確には「冷蔵冬眠」というべきか。体温を30度前後まで下げた状態で、特殊なカプセルの中に安置する。生命活動は極限まで縮小する。呼吸も、心臓の鼓動も1分間に1度程度となるという・ 「この技術は、老化速度を1/60まで低下させます」 職業柄、コールドスリープについては随分と詳しく調べた経験がある(残念ながら作品には生かせていないが......)冷凍してしまうと細胞内の水分が膨張し、組織を破壊してしまうのだ。このため、蘇生は絶望的である。 だが「冷蔵」なら、可能性はゼロではない。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加