オン・ザ・キャンバス

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 わけがわからなかった。ベルトを大切そうに抱きしめる嫁を見て、さらに動転した。さっきは同じベルトを廃棄しようとしていたではないか。嫁はベルトについた土を丁寧にはらうと、わざわざ俺の方を向いて、まるで勝利後の俺のように誇らしげな笑顔でベルトを自身の腰へ巻こうとした。許せない。それは俺だけのものだ。俺はやめろとかふざけるなとか言いながら全速力で駆け寄り、嫁に殴りかかった。嫁はステップバックでそれを避けると、シャベルで土を掘るようなスイングの右アッパーを俺の顎にくらわせた。  目が覚めると、リング上とは比較にならないほど安い電球の光を感じた。控室のベンチで横になっていたのだ。ジムの会長とトレーナーが上から俺の顔を覗いていた。 「ここがどこかわかるか?」とトレーナーが言った。 「ああ」と俺は返した。「試合後の控室。で、ついさっき俺の全勝記録は途絶えたんだろ?」 「そうだ。もうすぐ救急車が来る」 「クソっ」と言って、俺は身体を熱くした。  寝ているのが恥ずかしくなり、上半身を起こして壁にもたれかかった。まだ寝てろとか馬鹿野郎とか言われたが、気にしなかった。  ごちゃごちゃ言っている会長とトレーナーの向こう側の壁は鏡張りになっていて、その壁際には長机とパイプ椅子が並んでいた。俺は思わず腫れている目を大きく見開いた。珍しく傷だらけになった自分の顔が鏡に映ったから、ではない。長机の上に、奪われたはずのチャンピオンベルトが置いてあったからだ。  俺は立ち上がり、トレーナーの両腕をグッと掴んだ。 「なんでベルトがある?」 「お前はどう思う?」 「ふざけんな。教えろ」 「全勝記録は途絶えたが、無敗記録は継続中だからだ」 「なに言ってる?」     
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