01 暗い渦

11/16
前へ
/349ページ
次へ
 喉の奥で声が固まり、口がパクパクと動くものの言葉ならず悲鳴さえあげられなかった。  人影が音もなく地面に降り立った。  灯雅の髪の毛が逆立った。肌が泡立った。ここで彫像のようにじっとせずに、さっさと逃げだすべきだったが、さっきのようにはいかなかった。あまりの恐怖に足が動かないのだ。  幽霊!  街灯が人影の背後にあって逆光のためか、顔はよく見えない。いや、たとえ見えたとしても、見るのが恐ろしくてたまらなかった。にもかかわらず視線をそらすことができない。 「灯雅!」  突如、その声が闇を切り裂いた。  次の瞬間、幽霊が弾き飛ばされた。  築地塀に激突するところをみると、幽霊ではなさそうであるが、それを詮索している場合ではなかった。 「逃げるぞ!」
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加