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喉の奥で声が固まり、口がパクパクと動くものの言葉ならず悲鳴さえあげられなかった。
人影が音もなく地面に降り立った。
灯雅の髪の毛が逆立った。肌が泡立った。ここで彫像のようにじっとせずに、さっさと逃げだすべきだったが、さっきのようにはいかなかった。あまりの恐怖に足が動かないのだ。
幽霊!
街灯が人影の背後にあって逆光のためか、顔はよく見えない。いや、たとえ見えたとしても、見るのが恐ろしくてたまらなかった。にもかかわらず視線をそらすことができない。
「灯雅!」
突如、その声が闇を切り裂いた。
次の瞬間、幽霊が弾き飛ばされた。
築地塀に激突するところをみると、幽霊ではなさそうであるが、それを詮索している場合ではなかった。
「逃げるぞ!」
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