01 暗い渦

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「ほんとに行くのかよ」  呆れ顔でそう言ったのは、兄の麦沢秀電(むぎさわひでん)だった。県立高校二年で、弟とは三歳ちがいである。弟から最初その誘い話を聞いたときは、話半分でばかばかしいと一蹴していた。 「まぁ……」  兄に真顔でそう言われると、なんとなく照れくさい気持ちになって、弟・灯雅(とうが)は生返事するしかなかった。 「期末試験も終わったことだし、べつにいいかなと思って──」  だから少し言い訳じみたことを言ってしまう。 「肝試しか……小学生以来だな。ま、親に外出がバレそうになったら、適当に言っといてやるよ」  感慨深い口調で兄は懐の深いところを見せたが、やや恩着せがましかったかもしれない。
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