01 暗い渦

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「さんきゅ」  それでも弟は、夜中に外出することを黙認してくれた兄に感謝した。  午前0時──。  都会から離れた郊外の、繁華街もない町。大人はもちろん中学生がうろつくような時間ではなかった。パトロール中の警察官に出会ったら職務質問間違いなしである。  自転車で国道25号線をわたって法隆寺の駐車場前にやってきた。  昼間は観光客でにぎわうこの界隈も、夕方五時に法隆寺の門が閉じると同時に嘘のように静まり返る。  国道は交通量が多いものの、そこから外れてしまうともう人の気配がない。  参道前の交差点の、深夜になって点滅している信号を渡ると、ロープが張られて入れなくなった駐車場前にはすでに二台の自転車が待っていた。街灯の光が場違いなほどやたらとまぶしい。
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