9人が本棚に入れています
本棚に追加
「すまん、待ったか?」
灯雅が自転車をおりる。
「抜け出すのに苦労した?」
二人のうちの一人が口を開いた。真夜中なので声がよく響くから、声を低く抑えていた。天岡幸信。唯物論者だとうそぶき、怪現象も自然現象のひとつに違いない、その正体を見極めてやると、鼻息があらかった。
もうひとりは梅山計輔。メガネが知的な印象を与えるが、馬鹿話ばかりしていて、将来は漫才師になる夢を本気で描いていた。
そんな二人とも灯雅のクラスメートだった。町立中学校の各学年には三クラスしかなく、小学校も同じということもあって幼い頃からの馴染みのメンバーだった。
「じゃ、行くか──」
自転車を押しながら法隆寺の正門、南大門へと続く石畳を、しまっている土産物屋を右手側に見ながら歩き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!