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壁に沿って右へ。なだらかにカーブする道路はやや登り勾配があり、自転車を押していくとそれがはっきりとわかる。
法隆寺の周辺は古くからの家並みが取り壊されて比較的新しい家屋も多くなっていた。
「だれかが煙で渦をこしらえてたりしてな」
梅山が茶化すように言って、へんに緊張する場をなごませようとするが、灯雅も天岡も反応が鈍い。じめっとした空気が体にまとわりつくような夜は、そんな冗談に乗る口を重くさせていた。
ぐるぐると周辺を何周も回って、法隆寺東院の西門──四脚門の前まで来たときだった。時刻はそろそろ一時になろうとしていた。
もちろん四脚門は閉じられており、伽藍内に建つ夢殿は見られない。
梅山が立ち止まった。
「どうした? なにか見えるのか」
灯雅が問うと、
「あれ……」
そう言って指さす先──。
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