第1章

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 窪みの中央辺りに、昼の太陽の光に照らされた「何か」が、蠢(うごめ)いている。僕は、その「何か」の様子を、興味津々にじっと眺めていた。 「ウギャッ!ウギャッ!ギャー!」  突然、そいつは、何かを訴えるかのように鳴き始めた。 「猫?」  猫にしては、体つきが、ごつい。 「どうした?お前は、何者だ?」  僕は、大きな声でそいつに話しかけてみた。 「ンギャッ!」  答えた。僕には、そう聞こえた。  僕は、恐る恐る窪みの中に入って、そいつに近づいてみた。 「と、虎……?」  そこには、まだ赤ちゃんであろう虎が一匹だけ蠢いていた。 「なんで、こんなところに虎の赤ちゃんが……」 「ギャーギャー!」  虎の赤ちゃんは、僕の姿を見つけると走って近寄って来て、僕の足に前足を、預けてきて、何かを訴えるかのように鳴き続けた。 「お前、お腹空いているのか……?」  僕は、膝をついて、しばらくの間、その虎の赤ちゃんとじゃれ合って遊んだ。 「ンギャー!ギャー!」 「ごめんよ。今は、何も食べられるものを持っていないんだ……」  僕は、その子を抱きかかえて、自分の家に向かって山を下り始めた。途中、何度も鋭い爪で、引掻(ひっか)かれたけど、そんなに痛くなかった。 「お父さんとお母さんが、帰ってくる前に……」  僕は、虎の赤ちゃんを抱いたまま、誰にもバレない様にジャンパーの中に、その子を潜り込ませて必死で歩いた。 「よし、着いたぞ!」  お父さんもお母さんも、家の中には、居なかった。時刻は、12時半くらい。 「もう、ご飯食べて出かけちゃったかな?」  僕は、家の中に入ると随分と暴れてくれた虎の赤ちゃんを、そっと持ち上げて床に下ろした。 「昨日の豚汁の残りと、おにぎりがある……」  僕は、器に豚汁を、沢山盛り付けて、僕のためにお母さんが握ってくれた、おにぎりを三個全部、虎の赤ちゃんの前に差し出した。 「食べるかな……?」  虎の赤ちゃんは、鼻で豚汁の匂いを嗅いだ後、少しずつ豚汁を食べ始めた。食べられるものだと認識したのか?食べるスピードが、どんどん速くなっていった。 「美味いか?しっかり食べろよ……」  豚汁を完食した虎の赤ちゃんは、続いておにぎりをムシャムシャと食べ始めた。その様子は、とても可愛らしかった。 「お前、何でまた……こんなところに……」  虎の赤ちゃんの頭を撫でながら、僕は、その子に何か名前を付けようと急に思い立った。
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