68人が本棚に入れています
本棚に追加
力が抜けた上に頭痛までしてきたが、ここで翔が振り返り、俺にキッズケータイを差し出してきた。
「パパ、おじーちゃんがお話したいって」
「……ああ」
何を言われるのかは粗方察しがついていたが、俺がおとなしく小さなそれを受け取って耳に当てると、予想に違わず馬鹿笑いが聞こえてきた。
「ぶわはははははっ!」
「もしもし? 俺だけど。父さん、声がデカい」
「太郎! 前々から思っていたが、翔は本当に見所があるな! お前よりよほど頼りになるぞ!」
「……甲斐性無しの息子で悪かったな」
「決めたぞ。あの家は売らずに、固定資産税を払っておく。そして翔が成人したら、生前贈与をしてやるからな!」
上機嫌な大声に多少うんざりしつつ、俺は冷静に問題点を指摘してみた。
「ちょっと待て。それならその家を、無人の状態で放置しておくのか? そんな事をしたら確実に荒れるし、傷みが早くなると思うんだが。場所が場所だけに、野性動物にも荒らされそうだし」
「だから賃貸に出す」
あっさりと一言で片付けられた俺は、本気で呆れて声を荒げた。
「阿呆か!? あんな辺鄙な所、誰がわざわざ家を借りて住むんだよ!?」
最初のコメントを投稿しよう!