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 それからも何度か書店で彼とは顔を合わせた。いずれも週に一度くらいのもので、かといって親密になるでもなく、会話も多くはしなかった。  でも何度か顔を合わせると不思議なもので親近感が湧いていた。向こうはどうか知らない。  視線が合えば必ず笑顔を見せてくれた。魅力的なその笑顔はいつも違和感がある。  上手く説明できない。きっとわざと愛想を作っていて、営業スマイルの一種だからそれを感じるのだろうと思っていた。  そして言い知れぬ迫力がある。説明に難いが、ヤクザとかチンピラとかそういう種類の人間とも異なる、異質な空気を漂わせている。普通のサラリーマンではないのかもしれないな、と思ったけれどそれ以上のことは考えなかった。  そういうことが何ヵ月か続いて、ある日を境にぱたりと彼を見ることはなくなった。  それにより彼が何故いつもあの場所にいて、時々声をかけてくれたのかがわかった。  ピースがすべて集結しないと気づかないなんて愚かだった。  そうか、そういうことだったのか。  彼にずっと見張られていたのだ。
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