SS 「溺愛と日常」

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「いいのいいの。折角宝来くんと会うんだからさ、好きなとこ連れていってあげたいよ」  こういう時、普段軽いと感じる水落の口調が気安く感じられる。いかにも『あなたに合わせています』という堅苦しい空気にならないのでほっとする。  そして意外にも水落は空気を読むというか、気を遣ってくれているなと感じることがよくある。  俺に合わせろ、という態度ではない。気分次第に相手を振り回すタイプでもない。そういうイメージがあるが、実は全然そうじゃない。  いや、もしかしたら他の人間に対してはそうなのかもしれない。宝来だから、のめり込んでいるから気を遣っているだけかもしれないけど。 「じゃあ立ち食い蕎麦がいいです」 「うん、蕎麦ね。駅前にあったっけ?」  遠慮せずに希望を告げると、水落は快く了承してくれた。  宝来の希望を叶えられることが嬉しいかのように笑顔になったので、何だかくすぐったい気持ちになる。  やっぱり水落のことが好きなんだな、とこういう時にふと思う。
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