SS 「溺愛と日常」

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 近くの立ち食い蕎麦屋に初めて来てみたが、今まで行ったどの店よりも客の入れ替わりが早い。  麺だからさっと啜れるというのはわかるが、食事をゆっくり味わおうという気がさらさらないらしく、かき込むようにして客は店を後にしていく。そのほとんどが男性の一人客、サラリーマンばかりだ。  客層は牛丼店と似ている。女性もいないわけではないが、圧倒的に少ない。逆に女性の単独客はカフェとかスープ専門店とか洒落た店でよく見かけるように思う。  スープ専門店というのはスープばかりなのだろうけど、それで食事として足りるのだろうか。それとも主食やその他セットメニューがあるのだろうか。今度そちらも行ってみようか。  水落に指南してもらい、天ぷら蕎麦を食すと早々に店を出た。他の客に倣い、あまりゆっくりするのはどうかと思ったからだ。  しかし、店を出る直前、客のある男にふと目が留まった。査察部の次長、武田に似ているように見えたからだ。よくよく観察すると別人だったのでほっとする。  いや、武田を嫌っているわけではないけど、何となく職場以外の場所で上司に出くわすのは気まずい。ましてや、同伴者が水落だと気づかれたら変に詮索されかねない。
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