SS 「溺愛と日常」

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 人違いだったので気にせず店を出て水落と歩き出したのだが、彼は何故か不穏な空気を纏っている。  こういう時、水落は近寄りがたいひんやりとしたオーラを放っていて、今までとは別人のように感じてしまう。 「…宝来くん、今の知り合い?」  そして追及される。おそらく今の宝来の狼狽を観察していて、不審に思ったのだろう。 「あ…。うちの次長に似てる人がいて。でも人違いでした」 「そっか」  納得してくれたのかと思いきや、水落はまだどこか釈然としないような面持ちだった。  宝来の弁解を信じていないのだろうか。  もしかして、宝来が水落といるところを人に見られたくないと思っていると感じて、不快だったのだろうか。そうだとしたら悪いことをしてしまった。 「あの…どうかしました?」 「いや」 「でも何ていうか、機嫌がよくないように見えるんですけど…」 「うん、あのさ、これ聴いても俺のこと頭おかしいって思わないでほしいんだけど」  唐突な前置きがきた。頭おかしいと思わないでほしい? 一体何を言い出す気だろう? 「わかりました」 「俺以外の男見ないで」 「え?」 「そいつのこと殺したくなるから」  殺…。  とんでもなく物騒な言葉が出てきた。
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