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時計仕掛けの世界
始まりは小さな異変に過ぎなかった。
私に隠れて怪訝な顔で言い争う夫婦。
その言葉に帰る事を後悔するようになった。
幼いながらにわかっていた。家族でないものを大事な家に住まわせる……それは本来は無い共存の形。だからあの家に味方は居ない。
そんな家と呼ばなくてはいけない場所。
高校生にもなってもそれは変わる事は無かった。
亡くなった両親の代わりに引取ってくださった井坂家と、そこにお世話になっている私。
そんな美しい、偽物の家族の形。
傍から見ればそれは素晴らしく美しい関係だ。それが音を立てて崩れてしまったのはもう随分も前の事で。いつだったかはもうはっきりとは覚えていない。
けれど、あの頃は存在だけは否定される事は無かった。
だから学校では優等生を演じて、持ち前の明るさの裏で現実逃避に打ちひしがれた。
それでも彼らには私という存在は邪魔みたいで。
馬鹿みたいに何度も本当の家族と過ごしたあの日々を願った。
それでも、もう戻ってはくれないとはわかっているんだ。
食べた物や、飲んだ物がいつまで経っても減らないなんて事が無いように。
砂時計の砂がひとりでに上昇しない様に。
死者が生き返らない様に。
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