時計仕掛けの世界

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顔が熱くなったが、彼は全く気にした様子は無く、『おや……やっと喋れるようになったんだね。』と嬉しそうな顔を見せた。 彼のその笑顔に、何故か私の心も少し温かみを帯びたように感じたけれど、彼の言葉に私は耳を疑った。 『え……何言ってるの?私はずっと貴方と会話していたじゃない。』 言葉も少し裏返って、背筋に寒気が走る。 それでも青年は顔色一つ変えずに珈琲を一口飲んでからゆっくりと私に答えた。 『いや、私が直接話しかけていただけだよ。君は一言も喋っていない。でも、それが普通なんだ。君はここの人間ではないからね。』 そう言って、彼は私のカウンター席の前、私が目覚めたときに座っていた椅子に再び腰かけた。 『どういうこと?』 と聞くと、手に持った珈琲の香りを楽しむかのようにゆっくりと目を閉じてから彼は私に微笑んでから答えた。 『おかえり、小さなお客さん。恐らくだけれど君と会うのは十年以上ぶりかな?』 その声はやはり聞き覚えがある気がした。 日常から聞くことはなくなったその言葉に、懐かしみを覚えているだけなのかもしれないけれど。 『恐らくって事は、はっきりはしていないの?』 なんて、嫌味な聞き方をしても、彼は微笑んだままだ。     
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