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『ねぇ……私以外の住民以外の人は来たことがあるの?』
ふと、私はそんなことが気になった。
もう元にいた世界で後なんて一ミリも残っていないからこそ出た質問なのかもしれない。
けれど、彼はこれまた寂しそうに目を伏せた。色素の薄い髪からかのぞく黒く、男の割に長い睫毛が目元に影をつくっている。
『いや、僕の知る中では君一人だ。』
結局、その後何時間経ったかもわからないまま、彼の話をいくら聞いても私がどうやって来たのかも帰る方法もなに一つ解らなかった。
温かかったはずのココアも冷め切り、名残惜しくも、それを一気に飲み干す。カップを置いた時には彼は既に時計の修理に入っていた。
片眼鏡を嵌めて、ピンセットで慎重にパーツを入れ直している。
とても慎重で、気の滅入りそうな作業だというのに、彼は手を止めることなく私に話しかけてきた。
『ところで、透はどうしてここに来たんだい?』
などと、意地の悪い質問を。
正直なところ自分が一番知りたい。自殺したからだろうか?
それとも、時が戻って欲しいと願っていたからだろうか。
死の淵にたってもこの時計のように、巻き戻ることを願ったのだろうか。
『ねぇ、透。』
それとも……私が独りだからだろうか?
『そろそろ戻ったらどうだい?』
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