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その時、彼はいじっていた時計の蓋を閉じた。
『えっ……?』
誰のともわからないその時計は再びカチカチと独特な音を立てる。
『君はまだやり直せるはずだ。この時計のように。そしたら……本当の終わりが来るまで、私は君の時を見守ろう。』
彼はそう言ってやっと作業を止めて、壁にかかっている懐中時計を指差した。
何かの模様の施されたそれは、鈍くではあるが、銀色に一部輝いている。恐らくこれは銀の懐中時計なのだろう。
どこか懐かしい古いそれに手を触れると、途端に視界が歪み出した。
『だからもう……ここに来てはいけないよ?透。』
床、壁、天井。
目に映る全てが時計を中心に混ざりあっていく。その言葉と、壁に掛けられた時計の音だけが脳に木霊するように響き、本日何度目だろうというように段々と意識が薄れていった。
しかし、深い黒に飲み込まれた先に強一点の光が見えた瞬間。
つい先程までの自分の置かれた現状を私はやっと思い出したのだ。
『いやいやいや、戻ったら私遺体なんじゃっ……!?』
とは思っても上手く声が出ないのか、喉がひゅっと鳴っただけで。
喉は異常な程に乾いていた。張り付いてしまいそうな喉に手を伸ばしたくても思うように動かない。
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