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口もなにか硬いもので覆われており、送られてくる空気に噎せ返った。
辺りは独特な音だけが鳴り響いている。
それは病院でよく耳にするあの規則性のある音と、先程まで嫌というほど聞いていた時計の音が一つ分だけ聞こえた。
ようやく目が開くようになると、最初に予想していたよりは少し汚い白のように思える天井と、何の意味があるかわからない透明なカーテン。
点滴やら様々なチューブが無数に刺さっていて、身動きがものすごく取りづらい。
それどころか身体中の筋肉が衰えているようで無理に動かす度にピリピリとした鈍い痛みと重さが体を蝕む。
そんな感覚にざわざわと胸騒ぎがした。
思うようには動かない身体を無理やり少しだけ起こしてみれば、腕に巻かれた『永井透』のタグが見えた。
永井という懐かしい文字に頬には雨が伝った。
それだけじゃない。意識がはっきりしてくるとその口を覆っていた、所謂酸素マスクなるものにさらに咳き込んだ。
先程見た左手ではなく、右手が僅かに引っ張られている感覚がして目をやると、どこか見慣れた女性が私の頼りない手を握っていたのだ。
それは紛れもなく忘れかけていたあの『ママ』だった。
そしてようやく気が付いたんだ。
あれは夢だったのだと。
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