時計仕掛けの世界

3/22
前へ
/22ページ
次へ
『あんた達は必死ね。』 何年も何年も土の中で、最期の数日間だけしか空を飛べないのだから。 『でも、もう私は充分なの。』 高層ビルの屋上。 なんて恰好の良い場所は学生の私には選べるわけもなくて。 代わり映えのしない学校の屋上のフェンスを乗り越え、淵に立つようにして身を任せた。 『さようなら。』 夏休みの真っ最中で部活も何も無い様な日だっていうのに、律儀に気付いた教師が走りつめて来た。 私がここに入る為に壊した錠は鎖と共に床に落ち、先程までは静寂を決め込むかのように息を潜めていたのだけど、教師たちが踏みつける度にそれは痛々しい悲鳴を上げた。 それが何だかあの家での私のように思えて、心も連られて軋む。 止めようと必死な声が、鎖の音がしなくなってからも響く。泣いているような声もして、その場にいた先生方はこれ以上ないくらいに動揺していた。 分からないよね。 先生方からしたら絵に書いたような優等生だったもの。 先生方には悪いけれど、もう遅い。 『有難うございました。』 後から掛けられる声でさえも不協和音のように頭の中で響き、どこか歪んだ音のように聞こえる。     
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加