時計仕掛けの世界

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残念だけど私は珈琲なんて飲めない。お嬢さんという言い方が気に触ったけど、言い返せないくらいに子供舌なのは認める。この歳にもなって、とは少し気にして入るけれど苦手なものは苦手だし、飲みたいと思ったことがそもそもない。 それに、呑気に一息つくなんて出来る程私はこの状況が飲み込めたわけでも、これを良しとしたわけでもない。 そもそも死後の事なんて両親に会いたいとしか考えてなどいなかったが、少くてもこんな形で『井坂 透』を続ける事は微塵も考えてもいなかったし心構えもしていない分気味が悪い。 これではまるでゲームのボーナスステージみたいだ。ああいったものはゲームだから良いとして、人生にそんなのあって欲しいとは思わない。 『大丈夫。この世界はそんなものじゃない。とは言っても、透は信じないだろうけれどね。』 と、彼は何が可笑しいのか時計をいじる手を休めて口元に手の甲を軽く当てて笑っていた。 含んだ言い方に、馬鹿にされている気がしてイラッとしたけど、それよりもなんで私の名前を知っているのだと素直に疑問に思った。 『まぁ、そんなに気を悪くしないで。ここは君の言う天国でも、地獄でもない。ちなみに言うと名乗ったのは君だ。もう随分前のことのようだけどね。』 そう言って彼はふいに立ち上がると、方眼鏡と手袋を外し、どこかに行ってしまった。 『名乗ったのは私。』というのはどういう事だろう本当に私がここに一度来たというのだろうか?     
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