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店の奥で独りでに曲を奏でているアコーディオンは、宙に浮いて踊っている。繊細な曲は何処か怪しげだった。
そう、このカフェは、本来は魔法使いや妖精などの『人間ではないもの』が利用する場所。
先祖の中に魔女が紛れていたらしい私は、方向音痴も相まって自然とこのカフェに迷い込んでしまったのだ。
今日は二度目の来店である。
「良かった。ちょうどさっき、人喰いの狼が帰られたところです」
「そ、それは本当に良かったです……」
「お昼時でしたから、彼もランチを食べて満腹だったので……たぶん安全ではありますが」
綺麗に笑う彼はカウンターから出てくると、ちょうど調理場と向かい合える一番の特等席を引いてみせた。
促されるまま、私はぎこちなくそこへ座る。
おかしい。癒されに来たはずなのに、緊張はするし、恐怖心もある。
それなのに、気がついたら ここへ足を運んでしまっていた。
「何にしますか?」
「えっと、じゃあ……この間のミルクティーでお願いします」
「……かしこまりました」
マスターは慣れた手つきで紅茶を準備していく。それをぼんやりと眺めながら、私は記憶の整理を必死に行っていた。
そもそも、何故、私はここに来ようと思ったのか。
「そういえば、前にお話していた“彼”とは上手くいきましたか?」
「彼……」
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