カフェ

4/6
前へ
/7ページ
次へ
 マスターの何気ない問いに、そういえば前に来た時はそのことを相談したのだと思い出した。  好きではなかったけれど、私に告白してくれた人が居たのだ。その返事をどうするべきか、話したのだった。  けれど、初対面のマスターに……しかも年齢的にも近い彼に相談することではなかった気が、ほんの少しだけする。 「えっと、はい。断りました。やっぱり、なんとなく気乗りしなくて……」 「ああ、そうなんですね。女性の勘はよく当たりますから。特に魔女の血をわずかでも引いた、あなたみたいな人の勘は」  マスターは表情を変えずにさらりと答えた。  ふわりと香る茶葉の香り。紅茶だとは思うが、私はこの甘くて品のある香りを知らなかった。ここでしか飲んだことがない。 「そういえば、この茶葉はなんていうものなんですか?」 「これですか? これには名前はないんです。フレーバーティーの一種なんですが、ここで作っているので」 「このお店の名物……じゃないんですか?」  私は疑問に思って、瞬きを繰り返した。  けれど、ふわふわと甘く香るそれに夢心地になり、そんな微かな違和感など溶けてしまった。 「あなたにしかお出ししていませんので」     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加