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マスターの何気ない問いに、そういえば前に来た時はそのことを相談したのだと思い出した。
好きではなかったけれど、私に告白してくれた人が居たのだ。その返事をどうするべきか、話したのだった。
けれど、初対面のマスターに……しかも年齢的にも近い彼に相談することではなかった気が、ほんの少しだけする。
「えっと、はい。断りました。やっぱり、なんとなく気乗りしなくて……」
「ああ、そうなんですね。女性の勘はよく当たりますから。特に魔女の血をわずかでも引いた、あなたみたいな人の勘は」
マスターは表情を変えずにさらりと答えた。
ふわりと香る茶葉の香り。紅茶だとは思うが、私はこの甘くて品のある香りを知らなかった。ここでしか飲んだことがない。
「そういえば、この茶葉はなんていうものなんですか?」
「これですか? これには名前はないんです。フレーバーティーの一種なんですが、ここで作っているので」
「このお店の名物……じゃないんですか?」
私は疑問に思って、瞬きを繰り返した。
けれど、ふわふわと甘く香るそれに夢心地になり、そんな微かな違和感など溶けてしまった。
「あなたにしかお出ししていませんので」
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