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「たいちゃんの一個上だから、超近いよ。君ならタメでも全然OKだ!」
「よっしゃあ! んじゃあ、なんて呼べばいい?」
「真麻江ちゃんでいいよー」
「真麻江ちゃん! よろしく!」
「こちらこそ!」
早い……距離を詰めるのが早すぎる……なんだこいつら、本当に怖い。がっしりと固い握手を交わした二人は、僕のことなど気にも留めずに楽しげな会話をしている。
その間、僕はまた駅の方へ目を向けていた。
甥浜駅は甥浜線の最初だから、駅が他に比べて広く、ちょっとした商店やファストフード店が駅構内に入っている。売店やら本屋やらが並ぶ看板が壁に埋め込まれてあり、出入り口がいくつもある。そこは昼間でも人の出入りがあり、特に子供連れの若い母親がいた。タクシーの運転手もいる。バスから降りてくる老人や学生も。だが、やはりそこに黒い影は見当たらない……――いや、やっぱり父の言うことは当たっていた。
横断歩道の向こう側――日陰になったそこに、燻ったような黒い煙のようなものを僕の目が捉える。それは小さな塊で、ぐじゅぐじゅと不気味に蠢いていた。
「……太一。ねぇ、太一ってば」
スパーンといい音が僕の脳内にまで響いてくる。頭を思い切り叩かれたらしい。
「なに……」
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