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痛みに呻きながら訊いてみる。すると、姉は眉をひそめた。
「なんだ、“あれ”見てたのか」
用は別にどうってことはないらしく、姉は僕の視ていたものを見つけるとそこに向かって駆け寄った。
「あ、おい! 姉ちゃん!」
立ち上がり、腕を掴もうとするが既に遅く、姉は横断歩道を渡って一目散にそれへと向かう。そして、しゃがみこむとその影に向かって両手を伸ばした。
「なぁ、太一。真麻江ちゃん、何視てるの?」
不穏を悟った陽介が訊く。僕はなんとも言えず、頭が真っ白だった。
姉の視界は、悪いものを映さない。だから、何にでも躊躇なく近寄ってしまう。あれが黒い影だとも知らずに。
姉はそれを抱き上げると、こっちに向かって手を振った。満面の笑みで。
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