3・電柱にご用心

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 姉は安穏と言った。一刻も早く捨ててきて欲しいと思っていたが、彼女の今にも泣き出しそうな顔を見るとそんな酷なことを言えるはずがない。 「……野放しにしておくのも気が引けるけど……元いたとこに返してきたら?」  駅前に置いておくのは陽介に悪い。でも、それ以外に方法がないので僕はそれだけ言った。姉も「そうだね」と寂しそうに言い、すぐさま横断報道へと戻っていった。  黒い影が僕を睨むように、姉の腕からはみ出している。僕は息を吐き出して目を逸らした。 「太一……どうなった?」  店からこわごわ顔を覗かせる陽介。視えないのに恐れを抱くとは、これはこれで貴重な人種のような気がする。僕は苦笑を向けた。 「元いたとこに返してきてって言っといた」 「子供かよ」  すかさず鋭いツッコミが飛んできた。  ***  それから僕は午後の講義を受けに大学へ向かった。姉は今日は学校に行く気はないようで「爺ちゃんと将棋するー」と家に帰ってしまった。まぁ、それなら安心だし、もしも姉の体に異常が見つかれば祖父がどうにかしてくれるだろう。  ぼんやりと講義を受けて、たまに居眠りをして。そんな風に午後を過ごしていた。  学校以外で特に用事はないので、講義が終われば帰路につく。まだ陽が落ちていない夕焼けの帰り道、突然にスマートフォンが音もなく震えだした。着信……? 「もしもし」     
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