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「昔、べっぴんなお嬢さんについて行ったらな、その人、とっくに死んでたんだよ。んでな、危うく結婚させられそうになってなんとか上手く逃げたことがあってなぁ」
一緒にするなよ、クソジジイ。
僕はそんなことは絶対にしない。繊細なら見知らぬ女にホイホイついていかないし。危機感がなさすぎる。まぁ、この爺さんの場合、口を開けばいい加減な話ばかりなので聞き流す程度でいい。
「太一はあんたみたいなことしませんよ」
祖母、呉子はそう言ってジジイの話をぶった斬る。
「この子は目移りなんてしないのよ。今流行りの……えーっと、なんだったか……ほら、少食系なんだから」
うん、ありがとう、ばあちゃん。でも、それを言うなら草食系だしもう流行ってないと思うんだ。あと、いい加減に成仏したらどうなんだろう……なんてことは口が裂けても言えない。
すると、途端に祖父が言い返すように声を荒げた。
「うるさいぞ、ババア」
「うるさいってなんですか。あたしが世話しなかったら、あんたなんかあのロクでもない女に連れて行かれてたわよ」
「うるさいぞ、ババア」
「それしか言えんのか、あんたは」
今朝も絶好調にジジババの喧嘩は居間で繰り広げられる。そのすぐ隣のダイニングで朝食を摂るのが極めて億劫である。でも腹は鳴るので、仕方なく朝食の目玉焼きを黙って食べておいた。
「太一、寝癖ついてる」
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