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トーストを運びながら母が言う。
「もう、お爺ちゃんったらまた一人で喋って……あぁ、お義母さんがいるのね。もう、いつまで夫婦喧嘩が続くのかしら」
母、利恵子はジジババの口喧嘩を見てため息を吐く。
この一家で唯一、霊が視えない人である。ただ、この日常には慣れているのでスルースキルは僕や父よりも優れていると言える。まぁ、視えないからなんとも思えないんだろう。
「あれ? そう言えば真麻江ちゃんは?」
朝食の席にいない姉を母が気にかける。すると、父もスマートフォンからようやく目を離した。新聞やテレビが嫌いな父はネットからニュースを取り入れる。
「あいつはまだ寝てるのか……太一、起こしてきなさい」
父はそう言うと、再びスマートフォンを片手に持ち、トーストにかじりついた。
「え……なんで。別に起こさなくても良くない?」
二十歳もとっくに超えた女子大生をわざわざ起こしに行かなくてもいいだろう。それに面倒だから嫌だ。
姉の寝相はとんでもなく酷い。眠ったままチョップをしてくる。僕はてこでも動かないと主張するように、目玉焼きを口に放り込んだ。
「いいから、起こしてきてくれよ。大事な話があるんだ」
父は頑なにそう言った。
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