1・山田家の日常

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 カーテンは開きっぱなし。朝陽が差し込んでいるのにも関わらず、仰向けでベッドに寝転がっている。スウェットの上は捲れていて、柔らかな腹が丸見え。寝息だけは大人しく、なんとも気持ちよさそうに眠っていた。半眼でそれを睨む。 「真麻江ってば、おーい」  姉の脇腹を爪先でつついてみる。すると、ドスン! と姉が拳を振り下ろした。危ない……爪先が砕けるとこだった。 「姉ちゃん……あの、起きてください」  寝息を立てたままだから、眠っているんだと思う。それなのに、的確に僕の爪先を狙っていた。どんな悪霊よりも恐ろしい。それが僕の姉、真麻江である。  下手に触れるとどこかの部位が損傷しかねない。これだから僕はこいつを起こしたくないのだ。  しばらく声をかけ続けること数分――姉はカッと瞼を開いた。乱れた黒髪の隙間から僕の顔を見る。いちいち怖い。 「お、おー……おはよぉ、たいち……ご苦労さん」 「はぁ……」 「朝ごはん、何?」  色々と言いたいことはあるけれど、おはようと最初に言うだけマシか。 「ハムエッグとトースト」 「よし」  僕の答えに姉は元気よくベッドから起き上がった。 「あぁ、父さんが大事な話あるって」  布団から出てきた姉を認めてから、僕はすぐさま部屋を出ようと扉に向かった。出る間際にそれだけ言っておく。着替えなくていいらしく、姉はスウェットと寝癖のままで僕の後ろをついてきた。気だるそうに間延びした声を出す。 「大事な話ぃ? なんだろ」     
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