本編

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 二杯目をちびちびと傾けていると、親爺が傍に来て声を掛けた。親爺は五十路ほどで、背の低い細身の男だった。深い皺と鋭い眼光は、哀愁と(かげ)りが見える。 「何だい?」  仏弥は顔を上げた。 「かなり使い込んでいますね」  親爺が、仏弥の佩刀を一瞥して言った。  大刀は、二尺三寸余の醍醐院鳳至(だいごいん ふげし)。脇差は、一尺四寸の乃南信平(のなみ のぶひら)。二刀とも希少な銘刀である。 「判るかい?」 「氣というものですかね。板場にいても、二刀が放つ氣が私を()すのですよ」 「親爺、元は侍か?」 「以前は。故あって、刀は棄てましたがね」 「へぇ。ま、珍しい話ではないが」  仏弥は猪口を口に運んだ。今のご時世、侍は儲からない。刀を放り投げ町人になる侍は少なくないのだ。 「親爺、そこに座りな」  仏弥はそう言って、向かいの席を顎でしゃくった。この親爺と、もう少し話をしたい。そんな気分になっている。 「飲んでいいぜ」  仏弥が徳利を差し出すと、親爺は軽く頭を下げて酌を受けた。 「あとは手酌で行こうぜ」  親爺が、あるかないかの笑みを見せた。 「お客さんは御浪人で?」  着流しに、総髪。どこからどう見ても浪人である。 「ああ。〔やっとう稼ぎ〕をしている」  そう言うと、親爺は得心したように頷いた。 〔やっとう稼ぎ〕     
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