本編

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幕府に手配された罪人を捕縛する、賞金稼ぎの事だ。犯罪の増加に悩んだ先代藩主・島友叡(しま ともあき)が、役人の不足を補う為に打ち出した政策である。手配された罪人を奉行所に突き出すと、相応の賞金を貰えるのだ。その際に、罪人の生死は問われない。施行されて五十年。〔やっとう稼ぎ〕に従事する者は稼ぎ人と呼ばれ、今では生活の一部として根付いている。 「もう十五年になるな」 「長いですね。お客さんは余程の凄腕なのでしょう」 「なぁに、運が良いだけさ」  十七歳で稼ぎ人になった。何度も死にそうになったが、今の所は運良く生きている。 (全ては運だ。生きるも死ぬも)  仏弥は自嘲して、箸を鰯に伸ばした。  この十五年で、多くの生き死にを見てきた。それで判った事は、死は古い友人が訪ねてくるように、ある日突然やってくるという事だ。死の前に、善い奴も悪い奴も関係ない。また、死にそうにない奴に限って、ポックリと行くものである。 「私の弟も〔やっとう稼ぎ〕でしてねぇ」  親爺は、猪口に目をやったまま溢した。 「稼ぎ人の間では、ちょっと名の知れた男でございやした」 「へぇ」  仏弥は、懐から(かます)を取り出しだ。中には、煙管。木目の揃った高級なものである。  仏弥が刻み煙草を取り出しだのを認めると、親爺が煙草盆を差し出した。 「すまねぇな」  火入れに、雁首を近付ける。煙が出るまでに、それえほど時間は掛からなかった。 「本名は島岡久六(しまおか きゅうろく)ですが、稼ぎ人として籾井権之助(もみい ごんのすけ)と名乗っていました。渾名は確か……」     
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