3人が本棚に入れています
本棚に追加
───「続いての曲はこちらです」
ラジオを常に聞いている我々にとっては馴染みのある台詞だが、その日は違っていた。
この番組は高々、数千人にも満たない程しか聞いて居ない、小さな地方のラジオ局だった。
「この曲は私が辛い時やどうにもなら無い時に聞いています。」
とラジオから聞こえて来る彼女の声は、毎週聞こえて来るモノとは違っていた。
「それでは聞いてください─────」
その音楽は耳にした事が無い曲だったが、我々リスナーには何故か心に響き、その日のSNSで盛り上がり、次の日には、ラジオを聞いたことの無い人々の耳に音が鳴り響き渡った。
ある人は、「人は人として見てもらえなければ意味が無い」という歌詞に共感を持ち、
また、ある人は、「自分を評価するのは他人じゃない、自分だ」というその直接的な歌詞に心が惹かれいった。
この日を境に人々はその曲に奪われてしまった、心を。
だが、我々リスナーは知っている、この曲が二度と目の前で聞けない事を。
「この曲は私の父が、私が生まれる前に作りました。当時は中々、芽が出ずに父の音楽の道は終わり、他の道に進みました。何故、今日この曲を掛けたかというと、今日、私の父はこの世から旅立ちました。」
彼女は声を震わせ、詰まりながらもゆっくりと自分の声で我々に届けたのだった────
最初のコメントを投稿しよう!