おとなり様

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───「続いての曲はこちらです」 ラジオを常に聞いている我々にとっては馴染みのある台詞だが、その日は違っていた。 この番組は高々、数千人にも満たない程しか聞いて居ない、小さな地方のラジオ局だった。 「この曲は私が辛い時やどうにもなら無い時に聞いています。」 とラジオから聞こえて来る彼女の声は、毎週聞こえて来るモノとは違っていた。 「それでは聞いてください─────」 その音楽は耳にした事が無い曲だったが、我々リスナーには何故か心に響き、その日のSNSで盛り上がり、次の日には、ラジオを聞いたことの無い人々の耳に音が鳴り響き渡った。 ある人は、「人は人として見てもらえなければ意味が無い」という歌詞に共感を持ち、 また、ある人は、「自分を評価するのは他人じゃない、自分だ」というその直接的な歌詞に心が惹かれいった。 この日を境に人々はその曲に奪われてしまった、心を。 だが、我々リスナーは知っている、この曲が二度と目の前で聞けない事を。 「この曲は私の父が、私が生まれる前に作りました。当時は中々、芽が出ずに父の音楽の道は終わり、他の道に進みました。何故、今日この曲を掛けたかというと、今日、私の父はこの世から旅立ちました。」 彼女は声を震わせ、詰まりながらもゆっくりと自分の声で我々に届けたのだった────
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