黄金の獣は咲き初めし花に酔う

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    『あと残る手段があるとすれば……』 『あるのなら、すぐそれを……!』 『殿下か、もしくは陛下に、直接お命じになっていただくことでしょうね。それ以外には無いかと』  途端、ぐっと言葉に詰まった。  つまり、それは……彼の翼を無理矢理もぎ取るようなもの―――。 『――それは、出来ない……!』  きっと、やってみれば簡単なことなのだろう。けれど私は、反論してくるだろう彼に対し、声を荒げず冷静に応じられる自信が無い。ただでさえ、まだ彼の瞳を真正面から見つめ返すことが出来ないでいるのに……何故こちらの心情を理解してくれないのかと、頭に血を上らせた挙句、激昂して彼を傷付けてしまうだろうことが目に見えている。  それだけで済むならまだしも……最悪、彼の心まで壊してしまったら、それこそ取り返しがつかない。  怒りに我を失った自分が愛する者に何をしてしまったか……前科があるだけに、決して無いとは言い切れない。 『――ならば、仕方ありませんね』  ひとこと呻いたまま何も続けられず、唇を噛み締めるだけの私を見て、カシムは一つ、息を吐いた。 『とりあえずは、アリーシア様のご希望どおりにいたしましょう。ですが、秘密裏に護衛は付けるよう手配はしておきます』 『…ああ、そうしてくれ』  そして今しがた、別の用事にかこつけて、それをアレクへと報告してきたところだった。  正直なところ、それを伝えたら、アレクがアリーシアを諭してくれないだろうか、という期待もあった。私が動けないでいる代わりに、アレクに動いてもらえればと考えたのだ。  だが、やはりアレクは、付き合いが長い分、私よりも彼の性格を把握していたとみえる。  深々としたタメ息と共に『困ったものだな』と洩らしはしたが……だが、それだけだった。  思いのほかすんなりと受け入れてしまったアレクの姿に、思わず慌てて『本当にそれでいいのか?』と訊き返してしまったのだが、それについても『アリーシアがそう望むのであれば仕方ないだろう』という、諦めにも似た返答しか返ってこなかった。 『面倒をかけるが、くれぐれも彼女に覚られぬよう、護衛だけは付けてやってくれ。頼むぞ、シャルハ』 『あ、ああ……任せてくれ……』  そのようにして……最後の頼みの綱までもが切れた。
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